Bonanza Coffee Roasters キム・キドゥク

Bonanza Coffee Roasters

キム・キドゥク

「とにかく行動で示したい」異国の地で“はじめて”をつくり続けてきた創業者の生き方

2006年、コーヒーしか提供しない自家焙煎コーヒー店としてベルリンで創業した「Bonanza Coffee Roasters」。近く、カフェの4号店をオープンするほか、海外での店舗展開も視野に入れているという。スペシャルティコーヒーに特化するという営業スタイルをはじめとして、ドイツでは前例のない取り組みを続けてきた創業者のキドゥクに話をうかがった。

辞めようかと思ったことは何度もある

「私たちがビジネスを始めたとき、これといった事業計画は立てていませんでした。ただ、近所の人たちが来るような小さな店を作りたかっただけで、それ以上の規模にするつもりはなかったんです。少なくとも、私たちは何か大きな志や野心を持っていたわけではありません、そもそも、私たちのような変わった店では、経済的にも成り立つかどうかさえ怪しかったですから」

韓国で生まれ育ったキドゥクがベルリンでボナンザコーヒーをオープンした2006年は、サードウェーブの足音すら聞こえない時代である。カフェ文化が浸透していない街で、コーヒー一本で勝負する店を立ち上げたのだから、挑戦的であり冒険的だ。

「今でこそうまくいっているように見えるかもしれませんが、ビジネスがうまくいかず、辞めようかと思ったことは何度もあります。自己資金で多額の投資をしているので、簡単に辞めるわけにもいきません。特に、『THR BARN 』や『Five Elephant 』などのロースターにお客さんが流れてしまった2014年頃はいちばん大変だったとき。

ただ、彼らのおかげで、より多くの人がスペシャルティコーヒーに興味を持つようになったので、長い目で見ればお客さんは増えましたね。実際、サードウェーブの到来に足並みをそろえるように、ボナンザの経営も軌道に乗っていったんです」

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好奇心から、すべては始まる

キドゥクの前職は、のちに博報堂と合弁会社を設立した広告会社「TBWA」のデザイナーだ。そんな彼にとって、コーヒーは自宅で趣味として楽しむものだった。

だが、旺盛な好奇心は、キドゥクを新境地へと運んでいく。広告会社を辞めた後、1年間、自宅にこもり、プロ仕様のエスプレッソマシンでおいしいエスプレッソの淹れ方を追求するなかで、いつしか“プロ”の領域へと足を踏み入れていた。

「もっとおいしくできると思いながら試行錯誤を繰り返しているうち、なぜみんなまずいコーヒーを飲んでいるのか、疑問に感じたんです。ロンドンに住む友人がくれた『Monmouth Coffee(モンマスコーヒー)』の高品質な豆などに出会ったりするなかで、おいしいコーヒーを作ることはそんなに難しいことじゃないと思えるようになりました。

おそらくそれは、私があるテーマに興味を持ったときに、自分が納得するまで調べ続け、改善できる可能性を探し続けるからでしょう。そうするとたいていの場合、道筋が見つかり、他の人もその道の上を歩いていくようになるんです」

ボナンザコーヒーのすべては、キドゥクの好奇心から始まっていると言っても過言ではない。自分たちが使いやすい焙煎機を自社で開発・製作しているのもその一例だ。

「たとえばある機械メーカーと協同で、焙煎機の圧力計を開発したことがあります。それを導入したことがない彼らからは当初、『そんなことは不可能だ』『なぜそんなことをする必要があるんだ』と言われましたが、焙煎の質を高めるうえでとても重要な装置として今では標準的になっています。そういう知識や経験を買われてか、近年は世界的に有名な企業から、設備の構築方法や入手方法について、アドバイスを求められることも少なくないんです」

「他の人や企業が考えないことを考えて、小さな改善を繰り返すことが、私たちのタグラインでもある『unnecessarily good』な(必要以上にすばらしい)価値を創り出すのだと思っています」

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人々がボナンザを必要とした

特定の農園で収穫した透明性のある生豆を、その個性を最大限活かすように焙煎すること。温度管理ができるエスプレッソマシンを使うこと。コーヒー一杯につき、使うコーヒー豆の量を測ること。ポルタフィルターを使ってラテアートを提供すること……。これらすべてを一体化させ、スペシャルティコーヒーのみを扱う革新的なカフェデザインとして世に打ち出し、パラダイムシフトを起こしたところにこそボナンザコーヒーの真価はある。

「今では、どこまでできるか、どうしたらもっとよくできるか、どうしたらもっとおもしろくなるかと考えながら、好奇心を持って新しいことにチャレンジする姿勢がスタッフにも浸透し、企業文化として定着しつつあります」

好奇心に由来する突破力は、非常事態でも発揮された。コロナウイルスの影響でロックダウン措置がとられたときも、ボナンザコーヒーの店の前に行列ができていたのは、店の窓から販売する方法を編み出したからだ。

「ウイルスとは長い闘いになるだろうから、店を維持する方策を考えないといけないと思ったのです。大半のコーヒー店が店を閉めたこともあり、『店が開いているのはすばらしいことだ。毎日コーヒーを飲みに来て、経済的にサポートをしたい』と言ってくれるお客さまも現れるなど、普段より多くのお客さまに来ていただくことができました。ボナンザコーヒーを存続させたいと思ってくれたお客さまには感謝しかありません。

もっともその裏には、自分の利益ではなく、会社の利益になることをしようとしたスタッフの努力があります。他のコーヒー店のオーナーから『スタッフが離れていってしまった』という嘆きを聞いていたぶん余計に、会社を信頼してくれているスタッフがありがたく思えました」

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実現可能だと証明したい

「ボナンザコーヒーを創業してから15年。ある意味、情熱だけでやっていたために苦難も多く、こんなことは意味がない、これでは私の人生はよくならないという思いに苛まれることもしょっちゅうでした。

でも一方で、たくさんの楽しい瞬間があったことも事実です。それはやはり、経済的な成功を得るというよりも、私たちのやっていることがおもしろいと感じる人たちと一緒に仕事ができるからでしょう。

多くのおもしろい人たちと仕事をし、多くの新しい扉を開くことができ、とてもよい評判を得ることができた今、『あなたの会社はすばらしいですね』と声をかけてくれる人も一人や二人ではありません。エジプトの知らない街の人にもボナンザコーヒーの名は知られているでしょう。

振り返れば、どうすべきかがわからないときにも立ち止まらず、とにかく色々試してきたことが、今につながっています。好奇心を持っていると、普通の人の数歩先に行けるのです。

今後は外国への店舗展開も計画していますが、これは『決して不可能ではなく実現可能なんだ』とスタッフに感じてもらうためでもあります。正しいやり方で取り組めば、たいていのことは何だって実現できる。私自身がそれを、行動で示したいんです」

キドゥクにとって、単身、異国の地でビジネスをやるのは、想像以上の苦労を伴ったという。だが数々の試練を乗り越え、「私たちの辞書に不可能はない」と強く信じる心を手に入れたことこそ、彼の人生における“bonanza=大きな幸運”なのかもしれない。

文:中道 達也

MY FAVORITE COFFEE人生を豊かにする「私の一杯」

一つのシチュエーションには絞れませんが、旅行に行ったときでしょうか。私はいつも異国の見知らぬ街でスペシャルティコーヒーの店を探訪するのですが、現地でそういう店と出会うのは難しく、時には1日か2日、コーヒーを飲まないこともあります。でも、普段と違う環境で数日ぶりに飲むおいしいコーヒーだからこそ、喜びはいつも以上に深まるのです。

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