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2022.07.05

パナマ / Panama

パナマという国

西はコスタリカ、東はコロンビアと隣接した中米の国・パナマ共和国(以下パナマ)。人口は約400万人。近年の著しい経済成長に伴う急速な都市化の影響により、とりわけ首都圏における深刻な交通渋滞や上下水道等の整備の遅れが社会課題となっている。また、一人当たりの所得は向上したものの、貧困や経済格差といった問題は厳然として存在している。

国民の生活レベルが中米地域で最高水準となっている要因は、恵まれた立地条件にある。太平洋ー大西洋間を船舶で貨物輸送する際、南米大陸の最南端・マゼラン海峡ではなくパナマ国内を南北に貫くパナマ運河(全長約80km)を経由する方がはるかにスピーディーで、事故のリスクも回避できるからだ。

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世界の船舶輸送網において欠かせないパナマ運河が開通したのは1914年。だが、パナマが実質的にその恩恵を受けるようになったのは1999年以降、それまで長らくアメリカ政府の管理下に置かれていた運河を無償返還されたことがきっかけだ。遡れば、1903年にパナマがコロンビアから分離独立を果たしたのも、アメリカが運河地帯の支配体制をより強固にするためだった。

パナマ運河の通行料やコロン・フリーゾーン(いわゆる免税地帯)、金融、観光、不動産といった第三次産業のシェアがGDPの約7割を占めているパナマ。第一次産業や第二次産業の基盤が弱く、食料加工品や工業製品などを輸入に依存するパナマの貿易収支は、恒常的に赤字となっている。

その弱みを補うためにパナマ政府が講じているのが外国企業に対する税制面での優遇策だ。その最たる例が、輸出入に際して関税や消費税をかけず、自由貿易を促進させるコロンゾーンである。また国外で得た収入には一切税金がかからないため、香港やケイマン諸島に並ぶ「タックスヘイブン」としても知られている。

そんなパナマで世界の企業や富裕層が複数のタックスヘイブンに資産を分散し、課税を逃れようと試みてきた実態が明るみに出たのは2016年。パナマの法律事務所から流出した約21万社の租税回避行為に関する内部文書こと「パナマ文書」は、世界に衝撃を与えた。

小国というハンデを背負いながらも国際社会での存在感を発揮すべく知恵を絞ってきたパナマのありようは、「限られた農地を効率的に活用して、付加価値の高いコーヒーを生み出してきた」チャレンジ精神やイノベーティブな発想と無関係ではないだろう。

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パナマとコーヒー

パナマで高品質なコーヒーが多く生産されるエリアは、コスタリカとの国境付近、西部に位置するチリキ県の山岳地帯で、最も有名な生産地はボケテ地区である。その地域には独特の微気候(Microclimate)がある。北から吹く風が山を越えるとバハレケ(bajareque)と呼ばれる霧が発生し、山腹の気温を下げる。それによってチェリーが時間をかけて熟すという。

その火山灰土壌や微気候が、コーヒーの繊細な味わいを育む。パナマのコーヒーからは、ゲイシャだけでなくカトゥアイやティピカであっても、シトラスのきめ細かい酸や白砂糖の甘さ、均一な質感が感じられる。これこそがパナマのテロワールと言えよう。

パナマといえばゲイシャ種というイメージが強い。ゲイシャ種は1930年代にエチオピアの森から集められ、その後研究期間を通じてパナマ全土に広がった。ゲイシャの名を世界に知らしめたのは、エスメラルダ農園のピーターソン家である。2004年、彼らが育んだゲイシャが「ベスト・オブ・パナマ」のオークションにて当時史上最高値で落札され、脚光を浴びた。

パナマにおいてオークションに出品されるようなラグジュアリーなコーヒーの多くはエステイト(自社農園)で作られる。パナマ政府の働きによって外国人が誘致され、海外の資本が投下されたことで、数多くのエステイトが生まれ、農園がブランドとして機能し、世界最高峰のコーヒーが生み出されている。

しかしながら、パナマにはそれほど豊かではない農家もまた存在する。有名農園の隣の土地が、資本不足や技術不足で農業放棄地になってしまうこともあるという。私たちはその光の当たらない生産者にも着目しながら、パナマという生産国の未来を追っていきたい。

参考:
パナマ共和国基礎データ(外務省)
Embassy Of Panama In Japan
対パナマ共和国  ODA(政府開発援助)事業展開計画(外務省)
「この先の運河リスク」2021年7月14日 日本経済新聞