Simple Kaffa バーグ・ウー

Simple Kaffa

バーグ・ウー

「成長すれば、景色は変わる」新たな波を起こし続ける“精鋭集団”

2011年に創業し、10年間で30名近いスタッフを抱えるまでに成長した自家焙煎コーヒー店「Simple Kaffa」。ワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)での優勝経験(2016年)を持ち、社内からも台湾国内でのバリスタチャンピオンを生み出している創業者の吳則霖(バーグ・ウー)氏に話をうかがった。

バリスタチャンピオンシップに育てられた

さかのぼること13年前の2008年。デンマークで開かれたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)を観戦した経験は、“ただのコーヒー愛好家”だったバーグの心に火を灯していた。

「インターネットの動画でしか見たことがなかったバリスタチャンピオンやスタープレイヤーたちが、目の前で戦っている姿を生で見て、とても興奮しました。彼らが舞台に上がって話し始めたときはすごく感情が昂ぶったし、誰もがすばらしいパフォーマンスを見せてくれた。そのとき、自分もバリスタとして彼らと競い合ってみたい、いつか台湾を代表してWBCに参加してみたいという気持ちが湧き上がってきたのです」

突き動かされるようにして、バーグはその翌年の2009年から台湾のバリスタチャンピオンシップ(以下、TBC)に参加。しかし、自分が淹れたコーヒーはおいしいという自信は打ち砕かれてしまう。2009年、2010年ともに、予選落ちという結果に終わったのだ。

「強く印象に残っているのは、大会のステージに立ったとき、自分が何をしたらいいのかがわからなかったことです。まだ店を開業しておらず、自宅にて使い慣れた器具でしかコーヒーを淹れていなかった当時、大会の舞台では、時間に追われながら使ったことがない器具で淹れなければならないことにストレスを感じました。だから競技中は、自分がエスプレッソを淹れていることすら定かではなかったのです」

その失敗を糧に、バーグは大会の審査基準を理解するために多くの時間を費やすようになった。大会で高く評価されるコーヒーを飲み続けることで、“勝てるおいしさ”を身体に覚え込ませていったのである。

その甲斐あって、2011年の大会では決勝戦に進出し、6位という自己最高記録を収めた。だが、目標は「TBCで優勝し、WBCに出場すること」なのだ。さらによい成果を挙げるため、バーグの妻が大会の審査員に登録したのである。

「妻が審査員になることは、私にとって非常に重要でした。彼女は審査員の研修に行ったとき、大会での採点は、個人的な好みに左右されるものではなく、論理に基づいた根拠や基準によって判断されるものだと知りました。そのおかげで私たちは、コーヒーの味に対するフィードバックを言語化、見える化しながら五感を磨くトレーニングを体系的に行えるようになったのです」

その作戦は功を奏し、バーグらはTBCで2012年に3位、2013年〜2015年までは3連覇を達成。そして2016年には念願だったWBCで台湾人として初優勝を果たしたのである。

「バリスタチャンピオンシップの舞台では、バリスタだけではなく、チーム全体の実力が問われます。過去にWBCチャンピオンになったどのチームも、ベストな生豆を選ぶところから、ベストな焙煎プロファイルを用意し、バリスタのルーチンを構築するにとどまらず、(一番重要である)特徴的なコーヒーや業界のストーリーを審査員団に披露する力を見せています。一人ひとりが重要な役割を果たし、協力し合う強いチームをつくっているのです。

シンプルカファが業界を牽引するリーダーの一員になれたのは、当店で働いている人たち全員に一定以上の実力があるからだと信じています。確かに私はワールドバリスタチャンピオンという個人タイトルを持っているかもしれませんが、持続的な成長のためにもっとも重要なのはチームワークでしょう。それゆえに私は、信頼できるチームをつくるために、バリスタやロースターの育成にも熱心に取り組んできたのです」

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手づくりのコーヒー三輪車から始まった

2000年頃、当時学生だったバーグがコーヒーを自分で淹れ始めたのは、節約のためだった。

「もともとはカフェでコーヒーを買って飲んでいたのですが、毎日だとそれなりの出費になります。家でコーヒーを淹れたかったけれど、エスプレッソマシンのような高価な機器も買えないので、比較的手頃な値段の道具を使ってドリップコーヒーを淹れるようになったんです」

当初、自分で淹れたコーヒーはおいしくなかったが、それがかえってバーグの興味をかき立てた。どこに問題があるのか、どうすれば改善できるのか。そういったことに意識を傾けるなかで、コーヒーは生きていくうえで欠かせないものになっていった。

「自分が楽しむために淹れるだけでは飽き足らなくなり、もっとたくさんの人たちに自分の淹れたコーヒーを飲んでもらいたいと思うようになりました。飲んでくれた人の感想を聞くことで、自分のコーヒーを進歩させられると考えたのです」

写真提供:Simple Kaffa

やがてバーグは思いを行動に移していく。市場に野菜を買いに行くときなどに使用するカゴ付きの三輪車を購入。設計図を自分で描いたうえで大工に依頼し、手づくりのコーヒー三輪車をつくったのだ。そして、休日や大学、大学院の授業がない時間を活用し、近所の公園などで路上販売を始めたのである。

「きちんと計画していたわけではありませんが、いずれ自分の店を開きたいというビジョンははっきりしていました。でも、これは本当に自分がやりたいことなのか、見極めながらやっていたので、大学院を卒業後はコーヒーとはまったく関係ないエンジニアの職に就いたんです」

社会人になってからも三輪車での路上販売を続けていたバーグが思い切って店を開いたのは、2011年、TBCに参加し始めて3年目のことだ。「デパートの一角でカフェを開く計画がある。まだテナントが見つかっていないから、一度その場所を見に行ってみないか?」と友人から声をかけられたことがきっかけだった。

「私は自宅でコーヒーを淹れていたときも、おいしいと思っていましたし、家族も皆、おいしいと言ってくれていました。でも、外で販売するようになると、お客様はコーヒーを飲むためにお金を払うので、家で淹れるのとはワケが違います。

そういうお客様が『おいしい』『あなたの三輪車はとてもかっこいいですね』などと言ってくれたとき、私はとても幸せな気持ちになり、達成感を味わうことができました。自分の好きなことをして、達成感を味わえるのはすごくうれしいこと。それがカフェを開いたいちばんの理由です」

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新たな波を起こしていく

そんなキャリアを持つバーグが店名を「Simple Kaffa」としたのは、なぜだったのか。

「私自身はコーヒーの淹れ方について研究を重ねていますし、多くのことを理解する必要があると思っています。しかし、コーヒーを飲むお客様にはそういうことを知ってもらう必要はありません。彼らは、リラックスして、一杯のおいしいコーヒーを飲みたいだけですから。コーヒーについてのあらゆる複雑なことを理解したうえで、シンプルな形でお客様に提供する。それがこのブランド名を通して伝えたいことです。

また、「Kaffa」というのは、コーヒーの起源と言われているエチオピアの森林の名前であり、コーヒーの本質を重視していることを示しています。コーヒーは飲みものであり、飲みものは本質的な存在なので、おいしくなければいけません。自分たちが実現したい風味に悪い影響を及ぼすようなことはしませんが、質の高さを保つことができるとすれば、新しい試みにも果敢に挑戦しています」

焙煎後の工程に色でコーヒー豆を選り分ける機械を導入しているのはその一例だ。機械に投入した焙煎後の豆をすべて撮影し、あらかじめ設定した色に当てはまらないものは、自動的に除去していくのだ。多くのロースターが手作業で行うその工程を機械化することで、より効率的に質の高いコーヒー豆を生み出せるという。同様の取り組みとして、劣化の原因となる酸化を防ぐため、販売するコーヒー豆のパッケージに窒素ガスを充塡する機械も導入している。

「私たちのブランド名の中国語表記は「興波」です。「高興=嬉しい、楽しい、駆り立てる」の「興」と「波浪=波」の「波」からとったもので、この文字の発音(興波xìng bō)はSimpleと似ています。

中国語で「波を起こす」という意味を持つ「興波」には、スペシャルティーコーヒー業界に新しい波を起こすきっかけになって、これまでにないものをもたらしたいという思いを込めています。もし私たちがすばらしいことをすれば、業界のレベルを高められると思っています」

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強いチームをつくっていく

現在、30名ほどのスタッフを抱えるSimple Kaffaにおいて、バーグが現場の裏方として働くことはたまにある程度だ。それは、早い段階から強いチームをつくるための体制を構築してきた賜物である。

「ドリップコーヒー、エスプレッソなどの淹れ方から感覚の磨き方、コーヒーの味わい方まで。私は20年近くかけて培ってきたコーヒーに関するすべての知識や経験を、まったく経験のない新人バリスタに3ヶ月以内で教えます。できるだけ早く彼らに知識や技術を体得してもらうことで、その人もチームの一員として、一緒に成長したり、新しい発見を体験したりできるからです」

Simple Kaffaには、業界未経験からのスタートで、2度、台湾のバリスタチャンピオンに輝いたバリスタ(ゾイ・ライ)もいる。彼の存在は、会社の教育体制が成果を上げている裏付けとなるだろう。

「大学卒業後間もない2014年、私たちのチームに加わった彼女を1年間ほどトレーニングした後、バリスタとして雇用し、大会のアシスタントにならないかと声をかけました。TBCでステージに立つのは私ですが、アシスタントも私と同じくらい大会の手順や内容を理解している必要があります。そこでレベルの高い世界に触れてコーヒーへの理解を深められたことが、彼女の成長につながったのだと思います。

私たちのチームには他にも、TBCで2位になったバリスタ(シン・リン)やブリュワーズカップで何度か決勝ラウンドまで進んだバリスタ(ミリー・フン)もいます。私が常に意識しているのは、メンバー一人ひとりが私の代わりになれるチームをつくり、チーム全体のレベルを上げていくこと。私が現場から離れてもSimple Kaffaの味を守ることができているのは、私がこれまで育ててきた人たちがチームの核となって後進の育成に携わっているからでしょう」

Simple Kaffaでは、バーグによる3ヶ月間の研修を終えた後は、経験豊富なバリスタが教育係となり、新人バリスタたちを指導しているという。

「人に教えることで自分自身の理解度が試されるので、教える側にとっても学びは深まります。そういう仕組みをつくれば、私は自分の時間と労力を自分の成長のために使えますし、チームも留まることなく成長し続けられるのです」

創業してから10年。バーグ は今、「経営者」という枠におさまらず、新境地を開いている。

「他のブランドとのコラボレーション企画を実行したり、高級レストランなどでコーヒーとフードのペアリングをしたり……。店を開く前、自分ですべてのコーヒーを淹れていた頃と比べると、私の役割は大きく変わりました。

今でもたまにコーヒーを淹れたくなるので、店内にあるバーの裏方としてお客様にコーヒーを出すこともありますが、役割が変わったことで見える景色も変わりました。ここ2、3年の収穫は、他の業界の人と協働で仕事をするチャンスが増えたこと。これまでとは違った角度からの刺激を受けることで、自分自身も成長できているように感じます」

Simple Kaffaのブランドロゴには、大きさの違う3本の木が描かれている。「3つ以上=たくさん」という中国の一般的な解釈をもとに、たくさんの木が集まる森を表したロゴには、「自分自身がまわりを少しずつ成長させて、大きな森をつくっていく」というバーグの意志が込められている。

WBCの大会を生で見た日、登るべき山を見つけてから13年。その山の頂を踏破してもなお、新たな山の頂に向かう歩みを止めないバーグならきっと、これからも台湾のコーヒー業界に新たな波を起こし続けるだろう。

文:中道 達也

MY FAVORITE COFFEE人生を豊かにする「私の一杯」

私は、朝起きてから夜寝るまで、ずっとコーヒーを飲み続けています。短い時間でコーヒーを楽しめる私には、椅子にゆったりと腰かけてコーヒーを飲む必要はありません。さまざまな角度からコーヒーを楽しんでいるなかで、おいしいコーヒーに出会ったときはとてもうれしくなります。

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