Pharos Coffee シェイ・ライアン/イー・ユアン

Pharos Coffee

シェイ・ライアン/イー・ユアン

コーヒーの世界は、広くて多様。“灯台”となって、人々を導く

2019年、台北で産声をあげた自家焙煎コーヒー店・Pharos Coffee(ファロスコーヒー)。東京・神保町に1号店を構えるという当初の計画はコロナ禍で延期となり、先に台北店をオープン。神保町店は2021年冬のオープンを見込んでいる。コーヒーの焙煎、抽出を担当しているシェイ・ライアン氏とブランディングなどを担当しているイー・ユアン氏、共同創業者のお二人に話をうかがった。

言葉がコーヒーへの理解を手助けする

台湾に拠点を構えるファロスコーヒーのホームページは、英語、中国語、日本語の3ヶ国語に対応している。現在、台北にカフェを構えているファロスコーヒだが、当初は日本の東京・神保町に1号店をオープンする予定だった。運営を担当しているユアンは言う。

「昨年コロナ禍に見舞われたために、開業を延期せざるを得なくなりましたが、ユニークな外国人客を引き寄せる古本の街・神保町で、いろんな国の人々に知っていただくところから始めたかったのです。

ライアンが焙煎するコーヒーの味がすばらしいので、一つの店で提供するだけではもったいない。実店舗という形に縛られず、より多くの人に届けたい。そう考えているので、オンラインストアを中心に全世界に展開していくつもりです。

お客様にとっては、物理的距離や空間に制限されることなく、コーヒーを楽しめるところがオンラインストアの魅力でしょう。逆にバリスタとコミュニケーションをとる感覚を味わえないところはデメリットですが、それを補うためにユーザーの情緒に訴えかけるような商品の紹介文を用意しています」

たとえば、エチオピアのハデソはこう紹介されている。

“エチオピア・シダモ産のハデソは野性味溢れるコーヒー豆で、柑橘系のフルーティーな香りと酸味が典型的な特徴です。もぎたてのみかんのような、ほのかな柑橘類の皮の苦味を感じる香りがします。果肉だけではなく、皮ごとのみかんを感じて、まるで大自然の中にいるような気分にさせてくれます。柑橘系のほかに、紅茶のような風味も味わえます。”

「ライアンから、選んだコーヒー豆についての印象や感触、どのような味に仕上げるかを聞いたうえで、私がほどよい文字量に落とし込んでいます。言葉で表現すると、お客さんに味を伝えられるだけでなく、ライアンがコーヒーを通して思い描いた風景も伝えられるのがおもしろいところです」(ユアン)

ライアンは言う。「実際、豆選びから焙煎までの過程には、ドキュメンタリーに近い物語があります。生産者と直接コミュニケーションを交わし、そのコーヒー豆本来の姿を理解したうえで焙煎し、その魅力を伝える立場として、『柑橘系の味です』や『花の香りがします』といった淡白な言葉は使いたくありません。消費者がその物語の主人公となり、そのコーヒー豆を私たちと一緒に選んだ感覚を持っていただくのが理想です」

ユアンは言う。「ただ、詳細なストーリーやコーヒーができるまでのプロセスは消費者にとって最も重要なものでははないと考えています。一杯のコーヒーを飲み、自分が感じたことを感じてもらえればそれでいいのかなと。ゆくゆくはストーリーも紹介するかもしれませんが、少なくとも今は味について消費者とコミュニケーションを図りたいと思っています」

「Pharos=灯台」というブランド名には、抽出方法やコーヒー豆の選び方など、生活者がコーヒーの旅を楽しむためのガイド役になりたいというライアンの思いが込められている。

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店はコーヒーの“展覧会”

ファロスコーヒーのホームページには、「当たり前なんて存在しない。この時代に生まれてよかった」という独り語りのようなメッセージが書かれている。この言葉を選んだのはなぜだったのか。

ライアンは言う。「私は25年ほど前、12歳の頃からコーヒーを飲んでいます。カフェインを摂取するために、必要に迫られて砂糖とミルク入りのコーヒーやインスタントコーヒー、缶コーヒーを大量に飲むようになったのです。

今と当時を比べて大きく違うのは、『これまで飲んでいたコーヒーとは全然違う』と感じるチャンスが格段に増えていること。機械の進歩や科学的な栽培・発酵プロセスにより、コーヒーの精製方法や味が非常に多様になっているからです」

ファロスコーヒーでは常時、4~6種類のコーヒーをカフェとオンラインで販売している。ローンチ以来の2年間で提供してきたコーヒーは15種類。古いコーヒーが売り切れると、新しいコーヒーをラインナップに加えるという。

ライアンは言う。「風味が大きく異なる多様なコーヒーをラインナップに並べるようにしています。消費者の行く手を照らす“灯台”となってコーヒーの世界の広さを伝えるために、新たな風味のコーヒーを常に探しているのです。(補足しておくと、同じ生産者や精製所からコーヒー豆を仕入れる場合、3~6ヶ月で完売しても、翌年以降に再販する可能性があります)

というのも、好みは人それぞれですから。ウォッシュドが好きな人もいれば、ハニープロセスが好きな人もいる。品質にこだわりながら、幅広い選択肢を消費者に提供し、自身のお気に入りを見つけたり、探求したりできるように心がけています」

ファロスコーヒーのカフェは、1階に本屋、3階にアートギャラリーが入居しているビルの2階にある。白と黒を基調とする洗練された店舗空間を見れば、二人とも、デザインやアートに触れるのが趣味であり習慣でもあるというのも納得だ。

ユアンは言う。「私たちの店は展覧会場のようなものだと思っています。インスタグラムで『本当にイチゴの味がした』『本当にウィスキーのようだ』といったコメントも見られますが、店に来たお客さんは、コーヒーの多様で新しいフレーバーや味を発見し、体験することができるからです」

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コーヒーを探求する旅は続く

12歳のときからコーヒーを飲み始めたライアンだが、コーヒーの世界に入ったのは30歳の頃のことだ。生きる意味や目的を見失っていたときに、コーヒーは進むべき道を照らす“灯台”になったのだ。

「長らく飲食業界にいましたが、それだけで生活していけるような特別なスキルや優れたスキルがあるわけでもない。何か達成感を得られるような特技や専門性を身につけよう。そんな思いで、パンづくりやパスタづくりなども試してみたなかで最終的にコーヒーを選んだのは、単純においしくて、充実感を味わえたからです。客席が見えない厨房ではなく、バリスタとしてカウンターに立ち、お客さんの反応や声にダイレクトに触れられることこそ、コーヒーの醍醐味だと思いました」

専門学校に入学後、コーヒーにはさまざまな味やフレーバーがあることを知ったライアンは、ますますコーヒーに魅了されていった。卒業後は、その学校のアシスタントに就任した。

「学生から浴びせられる多くの質問に答えるために、精一杯背伸びしながらコーヒーについての知識を吸収していたことがよかったのでしょう。その知識を学生に伝えて喜んでもらえればうれしかったですし、達成感を味わえたんです」

この達成感を原動力に勉強を続けていったライアンは、やがて学校内で認められ、講師のポストを与えられた。そして講師を7年間務めたのち、自分の店をオープン。ライアンがその店で開いたコーヒー教室に参加したのが、ブランドデザイナーの仕事をしているユアンだった。

「私が経営していた小さなホテルでコーヒーを提供することになったので、自分が淹れるわけではなくとも、ある程度のことは知っておきたかったのです。彼からエスプレッソの淹れ方を学んだ後、自分でカフェをオープンしましたが、ライアンのつくるおいしいコーヒーを世に送り出したいという思いから、彼と一緒にファロスコーヒーを立ち上げました」(ユアン)

消費者とブランドの架け橋をつくることが、ブランドデザイナーの仕事のひとつである。一つひとつのコーヒーを生産国や農園の名前で呼ぶのではなく、No.1、No,2……という番号を振り、消費者にわかりやすくしているところも、ブランドデザインの一環だという。

ライアンは言う。「私がユアンとパートナーを組んだのは、彼が『利益重視の投資をしない』という冗談を言っていたからです。私たちはおいしいコーヒーをより多くの方に届けたいだけなので、東京に店を開くことを選んだのです」

数年前から、コーヒー豆を買い付けるために生産地を訪れ、生産者とのダイレクトトレードを始めるようになったことで、ライアンはまたコーヒーの世界の新しい扉を開いたという。

「ダイレクトトレードにより生産者が得られる利益を増やせば、生産者の生活の質が大きく向上することを実感したんです。たとえば、子どもたちが音楽を習い始めたある生産者の家庭では、子どもたちによりよい教育を提供できるようになったことをとても喜んでいました。そのことに感銘を受けた私のなかで、コーヒーを通して永続的に関わりたいという思いが芽生えたのです」

ライアンが焙煎したコーヒーを店舗内だけで留めておくのはもったいないとユアンが思ったのも、ライアン自身がコーヒーを探求する旅を続けているからだろう。「当たり前なんて存在しない」世界の広さや多様性を、ファロスコーヒーはこれからも教えてくれるにちがいない。

文:中道 達也

MY FAVORITE COFFEE人生を豊かにする「私の一杯」

ライアン:仕事上、必要があってコーヒーを飲んでいますが、コーヒーを飲んでいるという感覚はありません。よいコーヒー豆を仕入れてから消費者に届けるまでの過程で驚きがあることがうれしいのです。自分のために時間をかけてコーヒーを淹れることはあまりないので、その過程で小さな驚きを感じるときに一番幸せを感じます。

ユアン:コーヒーは日常的に飲んでいますが、私もライアンと同じで、コーヒーの味や独特の風味によって幸せな気分になったり、一瞬にして気分が変わったりすることがたまにあります。そういったところがコーヒーの魅力ですね。

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