TYPICA GUIDE
ONIYANMA COFFEE&BEER オニヤンマ コーヒー&ビール / 米澤 剛広

ONIYANMA
COFFEE&BEER

オニヤンマ コーヒー&ビール / 米澤 剛広

「理想はスタイルのあるロースター」人とのつながりで“らしさ”を紡ぐ

コーヒーと『友』に食事や会話、待ち合わせを楽しんでほしい、という思いで店を運営する北海道札幌市の「ONIYANMA COFFEE&BEER」。2016年にオープンし、スペシャルティコーヒーを扱う店として札幌市内に新しい風を吹き込んできた。同店で焙煎を担当する米澤剛広さんもまた、これまでにないスタイルを札幌のコーヒー業界に持ち込んでいる。(※文中敬称略)

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「つながり」が動き始めた

オニヤンマを鉛筆でさらりとスケッチしたようなロゴマーク。親しみやすさのある優しいタッチとは裏腹に、込められた思いには力強さがあった。

「昔の武将が兜のモチーフにもしていたオニヤンマは『勝ち虫』とも言われる縁起のいい虫で、『戦いに勝つ』という思いを込めています。さらに『北海道から羽ばたく』という野望もあって、アジア展開に興味がある社長も『どんどん広げていこう』とよく言っていますね」

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コーヒーやクラフトビール、ベジタリアン、ヴィーガンのニーズにも応える自家製のフードなど、多彩なメニューを提供するONIYANMA COFFEE&BEERがオープンしたのは2016年。米澤はその2ヶ月後に、アルバイトスタッフとして入社した。10数年間、飲食店の厨房で料理人として働いていた経験を買われた米澤は、入社後すぐに商品開発などにも携わるようになった。

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それから約2年。コーヒーの焙煎に憧れを抱いていた米澤は、前店長の独立を機に、焙煎の後任に名乗り出た。

「スペシャルティコーヒーに触れたのはこの店に入ってからですが、焙煎の仕事は気になっていたので、自分から『教えてほしい』と声をかけました。今は、人手が足りないこともあり、接客やキッチンもやる“何でも屋”です」

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ナイトロコーヒー

ロースターになって4年目を迎えた2021年は、さらに活動の場を広げる年になった。年末には、ロースター仲間と酒を飲んでいたときに生まれた「コーヒーとウィスキー」というイベントを共催した。

このイベントの狙いは、コーヒーを愛飲する人にはウィスキーを、ウィスキーを嗜む人にはコーヒーを知ってほしい、というものだ。参加したのは、ウィスキー専門店が2店舗、コーヒー店が2店舗の計4店舗。いくつかのコーヒーやウイスキーのほか、コーヒーとウィスキーを使ったアイリッシュコーヒーやコーヒーカクテルなども提供した。参加者からは「気になっていた店の味を気軽に楽しめた」という声もあがるなど、イベントは無事成功を収めた。

「コーヒーもウィスキーも、興味のない人にとっては一部の『マニア向け』の飲み物になりがちですが、奥深さは共通すると思っています。今後も継続していきたいですし、札幌市内のロースターさんを集めて色々なコーヒーを楽しむイベントなんかもやってみたいですね」

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仲間との出会い

そんな米澤だがイベントを自ら開いたり、人を巻き込んだりするのが得意というわけではない。「人との出会いにしても、タイミングが来るのを待ってしまう受け身のタイプ」だという。

「もともと、自分で何かを作っていくことより、任された仕事をきちんとこなすことの方が向いていた気がします。厨房で調理を任されていた頃も、焙煎を始めた頃も、仕事を覚えることで精一杯でした。人のもとで何かを吸収したいという気持ちが強かったので、お客さんが求めているものを作ろうという視点は足りていなかったですね」

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転機となったのは、1年ほど前に開いたカッピングイベントだ。以前から気になっていた店のロースターに声をかけていくうちに、つながりが広がっていったのだ。コミュニティが形成されていくと、イベントの誘いを持ちかけられることが増えていった。

「興味があるものはできるだけ具体的な形にしたい、と思っています。今度やろうよ、と言いながら流れてしまいがちなところを、実現していきたくて。自分自身が広く浅く何かをすることが好きだからかもしれません。長年やってきた人に比べたら薄っぺらいかもしれませんが、いろんな引き出しができることを楽しんでいます」

米澤の幅広い興味や関心が、さらに人とのつながりを広げている。一緒に何かしたいと思える仲間やスタッフとの出会いに恵まれた1年だったと2021年を振り返る。

「人とつながって何かをすることが好きです。自分にはない発想をする人と接することは刺激になるからです。自分の店を持つオーナーやロースターは、群れない一匹狼のように見えるかもしれませんが、実際に会って話すと、横のつながりを求めている人は多いですね。何かやりたくてもやり方がわからないという人も多いので、『まずはやってみようよ』と気軽に楽しくアイデアを実行できたら面白いかなと思っています」

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スタイルを持つ人でありたい

米澤にとってのスペシャルティコーヒーの第一印象は“スタイルが洗練された、おしゃれな飲み物”。初めて飲んだ時には、今まで飲んできたコーヒーとは違う飲み物のような気さえしたという。

「この店の洗練された雰囲気も好きでした。モノが少ないカウンターに並べられたドリッパーとスケール。その横にはエスプレッソマシーンがあって・・・。当時はこういう店も少なかったので、独自のスタイルがあって印象的でした」

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そんな米澤が理想とするロースターは「スタイルのある人」だ。ハードコアパンクバンドのドラマーというもう一つの顔を持つ米澤の理想は、音楽に携わってきた経験から芽生えたものでもある。

「何かをつくっている人はどんな形であれかっこいいと思いますが、輝いている人は自分のスタイルを持っている気がするし、あえて持たないというスタイルもまた素敵だと思うんです。ドラムの音を聴いただけで誰が叩いているかかがわかるのは、まさにスタイル。曲が売れたかどうかではなく、その人だからこそ出せる音を生み出すことに魅力を感じるんです。コーヒーは、料理より“つくる”自由度が高いなと思っています。コーヒーカクテルのように新しいものがどんどん生まれていて、飲み手の感度が高く、表現の幅も広いと感じます。やりたいと思うことを実践しやすいところに面白さを感じ始めています」

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前の店長に焙煎の仕方を教わった後は、ほぼ独学で焙煎の腕を磨いてきた米澤。自分のスタイルを追求できるようになるまでには、高い壁があった。

「本を読んだり、ネットで調べたりして知り得た理論だけでは自分のスタイルは見えてきませんでした。焙煎ひとつとっても、人によって言っていることが真逆だったりもして、自分でやってみないとわからないことが多くありました。時には理論上の数値にアレンジを加えて、何度も焙煎を繰り返していくことで、自分らしい焙煎の好みを探ることができたんです。

それでも行き詰まってしまった時は、人の評価に救われています。自分への評価が厳しくなり、自分が作るどのコーヒーを飲んでも美味しいと感じなくなるなかで、人から美味しいと言ってもらえることは、合格ラインを超えるきっかけになる。人が楽しんでくれることで初めて、自分でOKが出せるのは、音楽もコーヒーも同じだと感じています。

最近は、お客さんが『美味しいね』と飲み干してくれることが単純に嬉しくてやりがいにつながっています。焙煎だけじゃなく接客もできるポジションにいられることで、お客さんやスタッフの生の声をフィードバックとして聞けるのでありがたいです。

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スペシャルティコーヒーの世界では、“王道”と呼ばれるスタイルが時代と共に変化しています。常に新しい情報や豆が入ってくるから、スタイルを探し続けることができる。だからこそ経験を重ね、自分のなかにデータを蓄積することは大切だと思っています。音楽でも、いくつもの曲を聴き漁って、経験を蓄積することで自分の色を出していけるところはコーヒーの世界に通ずるところがあります」

米澤が目指すスタイルは、まだ明確には定まっていないが、人とのつながりから生まれる新しいコーヒーの提案がヒントになりつつある。札幌では今、以前からあるコーヒーマルシェに加え、若い世代がコーヒーイベントを主催し始めていることに、米澤も刺激を受けている。

「焙煎を追求することと並行して、周りのロースターさんを巻き込んで何かをやりたいと思っています。札幌で生まれている新しい波を、自分たちが大きくしていけたらなと。コーヒーとウィスキーのペアリングイベントのように、お客さんがスペシャルティコーヒーを知る入り口をつくっていきたいですね」

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米澤が18年間も音楽を続けてきた理由は、稼ぐためではなく“楽しさ”を感じられたからだ。長い年月の間に育まれた、“楽しさ”を共有する音楽のコミュニティが、時を経てコーヒーの世界のコミュニティと交じり合うようになったという。

「出会った人が、実は友達の友達だったなんてことが多く、音楽を続けてきてよかったなと思います。コーヒーと音楽、コーヒーとお酒など、コーヒー一本に絞らずに、違う要素を混ぜていく面白さを感じているのは、徐々にいろんな引き出しが増えてきたからでしょうね。最近では興味が湧いたものはなんでもやってみようと思えるようになりました」

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生産国と自分をつなぐもの

スペシャルティコーヒーの認知を広げることを目指す米澤には、コーヒーの生産を取り巻く社会課題に目を向けてほしいという思いがある。その思いを抱いたのは、札幌の生豆商社で働くグアテマラ人から生産地のリアルな事情を聞いたことがきっかけだった。

「コーヒーチェリーの果肉が捨てられることで川が汚染されたり、ひどい悪臭がしたり。自分が魅力を感じて提供してきたスペシャルティコーヒーの生産現場では、生産者の暮らしや地球環境に大きな負担をかけている一面があることを初めて知って驚きました」

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さらに米澤の思いを強くさせたのが、店で働いていた女性スタッフとの出会いだった。彼女は、店で買い付けているコーヒー豆を生産している農園で、ボランティアとして仕事を手伝ったことがあるのだ。

「そこに暮らす人の賃金や生活水準など、本やインターネットでは得られない情報を知ったことで、農園の存在がさらに身近になりました。訪れたことはないけれど、そこで生活したことのある人がそばにいて、その農園のコーヒーを淹れられる。何かつながりのようなものを感じます。

札幌の人たちに生産者のストーリーを伝えるには、農園のことやサプライチェーンで起こっていることについて、もっと学ばなければいけない。でも、まずはスペシャルティコーヒーを楽しんでもらうことが大前提です。そのなかでほんの少しでも生産国のことを一緒に学んでいければと思っています」

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コーヒーと音楽で人の縁が重なり合い「コーヒー」の表現の幅を日々広げている米澤。生産者からロースター、生活者まで、“つながり”を大切にしようとする思いが、米澤のロースターとしてのスタイルを紡いでいくのだろう。

文:前澤 知穂
編集:中道 達也
写真:Kenichi Aikawa

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MY FAVORITE COFFEE人生を豊かにする「私の一杯」

共に働いていたスタッフがかつてボランティアで仕事を手伝っていた農園のコーヒー豆を、自ら焙煎して淹れて飲む一杯です。グアテマラなどの生産地に、自分も早く行ってみたいです。

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