Kawa Coffee カワコーヒー / アレクシス・ガニェール

Kawa Coffee

カワコーヒー / アレクシス・ガニェール

「それぞれの個性に光を当てる」“敬意”が生み出す多彩なコーヒー

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2016年、フランス・パリでカフェやレストラン向けにスペシャルティコーヒーの卸売を行う会社として出発したKawa Coffee。現在は、オンラインストアや自社直営のコーヒー店を通じた小売の他、毎月、新鮮なコーヒーを届けるオフィス向けのデリバリーサービスなども手がけている。

そんなKawa Coffeeで働くスタッフ約20名の平均年齢は27歳。誰もが発言権を持つ平等なチームづくりを心がけているのが、共同創業者のアレクシス・ガニェールである。話してみても「気のいいお兄ちゃん」という印象は変わらないアレクシスだが、「2019 World AeroPress Championship」で3位、フランスの「Roasting Championship 2021」で2位の実績を持つなど、実力は折り紙付きだ。コーヒーからチームづくりまで、すべての底流にある彼の思いを探った。

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スペシャルティコーヒーの民主化を目指して

フランスは食文化で有名な国であるはずなのに、パリでおいしいコーヒーが飲める店がなかなか見つからない。そんな驚きをもとにアレクシスが創業したKawa Coffeeの経営は、3つの柱で成り立っている。

カフェやレストラン向けの卸売事業、オンラインストアや自社直営のコーヒー店、パリのブティックでの小売事業、そしてオフィス向けのデリバリー事業だ。

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デリバリー事業では、パリを中心としたフランス国内のオフィスにDe’Longhi(デロンギ)やJURA(ユーラ)のコーヒーマシンを貸し出し、毎月、新鮮なコーヒーを届けている。

「気軽に楽しめるコーヒーから珍しいコーヒー、品評会に出品されるような高品質なコーヒーまで、比較的手に届きやすい価格で提供しています。私たちはカプセルコーヒーの使用を禁じていますが、デリバリーだとゴミを減らせるので環境にもやさしいですよね。

お客さんからは、コーヒー豆そのものだけでなく、豆を挽く音、コーヒーの香り、出来上がったコーヒーの味がいいと評判です。これこそが私たちの狙いなのですが、スペシャルティコーヒーに慣れてきた人たちは、『前まで飲んでいたコーヒーがもう飲めなくなった』と言うようになる。コーヒーに興味を持ち、家庭でもおいしいコーヒーを楽しむようになるお客さんもいるのは、とても嬉しいことです」

一日のうち多くの時間を過ごすオフィスでおいしいコーヒーが飲めれば、習慣化しやすいだろう。そう読んでデリバリーサービスを始めたアレクシスらには、スペシャルティコーヒーを幅広い人たちに届けるという目的がある。

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その目的を達成するためのアプローチとして、「ある特定の嗜好に偏らない」のがKawa Coffee流だ。オンラインストアでも、30種類以上の多彩なコーヒーだけでなく、おいしいコーヒーを淹れるための多種多様な器具を販売している。

「私たちが心がけているのは、発酵方法にしても精製方法にしても、特徴的なものからオーソドックスなものまで、バランスのいいコーヒーのラインナップを用意すること。精製方法でいえば、ナチュラルとウォッシュドの両方を用意するのはもちろん、同じナチュラルでも、口当たりやボディ、フレーバーの違いを意識しながら、少し変わった味から繊細な味のものまで取り揃えています。

なかにはある特定のタイミングでしかおいしく味わえないコーヒーもあるので、私たちは、入れ替えない定番商品と季節限定商品の2つの路線でコーヒーを用意しています。ただ、季節限定のコーヒーも、気に入ったお客さんが楽しめるように短くとも3ヶ月ほどは提供し続けていますね」

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スペシャルティコーヒーの敷居を下げ、身近な存在にするために、Kawa Coffeeでは一般向けに焙煎のワークショップを開催している。参加者は10時間コースの研修を受講した後、自分たちで焙煎し、カッピングすることができる。要望を出せば、マンツーマンのレッスンも受けられるという。

「ワークショップにはコーヒーに詳しい人も来ますが、初めて焙煎する人もたくさん参加します。以前は毎週開催していましたが、今はほとんどの参加者が自分で焙煎できるようになったので、需要に応じて開催頻度を変えていますね。

つまるところ、私たちが実現したいのはコーヒーの民主化です。スペシャルティコーヒーをすべての人に楽しんでもらえるようにしたいのです」

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リスペクトの精神を忘れない

フランス北部のノルマンディー地方で生まれ育ったアレクシスが、ロンドンの街でスペシャルティコーヒーと出会ったのは2015年。スペシャルティコーヒーのフルーティさや酸味に、エスプレッソが大好きだったアレクシスの心は奪われていた。

「その後フランスのパリに戻り、おいしいコーヒーが飲める店がほとんどない現状を知ったとき、ビジネスチャンスだと感じました。自分が好きなコーヒーをイギリスからわざわざ買わずに、フランスで飲めるようにしたかったことも起業したひとつの理由です」

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アレクシスの父方の祖父母、叔父は皆、ミシュランの星つきレストランのオーナーシェフだ。食やガストロノミーを楽しむ血が自分にも流れている。そう自覚するアレクシスは、コーヒーを学び始めてすぐにコロンビアへと向かったのである。

「自分で焙煎できるようになるためには、コーヒーがどのように育てられて、生産されているのかをより深く知ることが大切だと思ったのです。ワインにうるさいことで有名なフランス人の中には、生産者を訪ねて話を聞くことを楽しむ人も多いのですが、彼らと発想は同じです。私自身、コーヒーに関する本や記事をたくさん読みましたが、生産者が品質の鍵を握っていることはすぐにわかりました」

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現在、Kawa Coffeeで仕入れている生豆のうち約30%が生産者とのダイレクトトレードによるものだ。取引する生産者を決めるうえでも、明確な指針があるという。

「最終的に大事なのは質ですが、まずは栽培方法を見ます。有機肥料や再生可能エネルギーを使うことにこだわっているか、水の管理(再利用)にも注意を払っているか、といった点で判断しています。

もっとも、そういった取り組みは小規模な生産者にとっては資金面でハードルが高いので、必須条件にしているわけではありません。生産者が敬意を持って土に向き合う限り、コーヒーの質は確実に高まりますし、小規模な生産者がつくったコーヒーの背後にある物語を発信することも私たちの大切な仕事だと思っています。

さらに、栽培方法とも密接に関わっているのですが、質の面で重視しているのは、質が安定しているかどうか、コーヒーの個性が際立っているかどうかです。今はコスタリカでエチオピアの品種を育てている生産者とコンタクトをとっていますが、私たちはいつも新しい体験や新しい品種を探し求めているのです」

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かつては料理人の道に進むことも一つの選択肢だったというアレクシスが、最終的にその道を選ばなかったのはなぜだったのか?

「勤務時間は長くて週末の休みもない、たくさんのことを犠牲にしなければならないと思ったからです。でも、それゆえに一生懸命にものづくりをしている人たちには尊敬の念を抱いています。

実際、ものをつくるという点では、料理もコーヒーも同じです。生産者からバリスタまで、一杯のコーヒーが消費者に届けられる過程のどこかで、誰かが何かを間違えるとコーヒーの味が台無しになってしまう。だからこそ、リスペクトの精神が欠かせないのです。

今、自分で起業して会社を経営している以上、何も犠牲にしないというわけにはいきませんが、コーヒーによって生まれる犠牲なら私は喜んで受け入れます。コーヒーは生きていくための仕事であるのと同時に、情熱を注げる対象でもありますから」

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チームを発展させる「平等性」

Kawa Coffeeの特徴を語るうえで外せないのが、職場環境だ。約20名いるスタッフの平均年齢は27歳。スタッフの募集ページに掲載されている集合写真を見るだけでも、雰囲気のよさが伝わってくる。

「無理やりみんなを笑顔にさせて写真を撮りましたからね(笑)。それは冗談として、生豆の選定から焙煎したコーヒ豆の販売まで、みんなが終始近い距離で関われることに充実感を感じているのだと思います」

皆でひとつの商品をつくりあげているという実感を持たせるため、アレクシスが常々心に留めているのが、平等性にもとづいた参加型のチームづくりだ。週に一度のミーティングや仕事の合間に、「なにか変えたいことがあるか?」「どう思うか?」といった質問を投げかけて、彼らの意見に耳を傾けるという。

「役職による上下はあったとしても、生豆の買付から焙煎、品質管理まで、担当している仕事を問わず、誰もが意見を言える環境が大切だと考えています。たとえ新入社員であっても、接し方は変わりません。誰かが企画や提案を思いついたときも、まず話を聞きますし、もしそのアイデアがよければ採用します。

もちろん単に意見を言えばいいわけではなく、仮に他の人の意見に聞く耳を持たない人がいると物事はうまくいきません。が、幸いにも今までそういう悩みに直面したことはないんです。スタッフは皆、私の理想に共感し、平等性を維持しようと努めているのはありがたいことですね」

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アレクシス自身に特別なことをしているという自覚はないが、他社から転職してきたスタッフのなかには、Kawa Coffeeの組織文化に驚く人も少なくない。

「彼らはよく、私たちのチームがどれだけ他と違うのか、どれだけこのチームで働くことが楽しいのかを語ってくれます。もちろん輪の中に入ることを好まない人もいますが、そういう人の意向も尊重するのが私たちのスタンス。家族と接する距離感が人それぞれなのと同じように、会社にコミットする度合いが人によって違うのは当たり前のこと。いずれにしても、みんながKawa Coffeeのメンバーを家族のように思っていることは確かかなと。

実際、その方が経営的にも正しい選択だと思います。スタッフが居心地のよさを感じている職場では、仕事やコーヒーに対して忍耐強く向き合うようになり、集中力も高まります。そうなると仕事のパフォーマンスや質も上がるといった好循環が生まれ、チームの永続的な発展につながると考えています」

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それぞれの持ち味を尊重する

一度は「食」という自身のルーツから離れ、ロンドンで1年間、金融の仕事を経験したアレクシスがスペシャルティコーヒーの世界に身を投じた因果には、必然を感じずにはいられない。

そんなアレクシスだが、Kawa Coffeeを営む傍ら、小さなレーベルを運営し、「ディギング・レコード」という活動も行っている。活動の目的は、かつては価値を見出されていなかった古いレコードを掘り出して世に送り出すこと。一見すると結びつきそうにないコーヒーと音楽だが、アレクシスの胸には一貫した思いがある。

「コーヒーも音楽も、個人の嗜好が色濃く反映される分野です。コーヒーの仕事では、昔ではなく今にフォーカスしていますが、新しい何かを探し出そうとする姿勢や、つくり手の仕事を世の中にシェアするところは音楽と共通しています。時には古い音楽を自分たちでアレンジして新しい音楽を生み出すこともあるという点でもコーヒーと似ていますよね」

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自身の意向を押しつけないアレクシスの“民主的”なスタンスは、音楽や人にも通じている。焙煎では「それぞれのコーヒーが持つ固有の味を尊重している」アレクシスにとって、スタッフが各々の持ち味を発揮できるように平等な機会を提供するのは当然の選択なのだろう。

「Kawa Coffeeで扱うコーヒーのラインナップが幅広いぶん、品質管理や焙煎のプロファイルの設定などは大変です。それでも私たちは、さまざまな味に触れ、さまざまな感覚を体験する機会を消費者に提供したいんです」 

まだ知られていない“原石”を探し続けるアレクシスが教えてくれたのは、真に多様性が備わっている世界には「多様性」という言葉が存在しないことだ。Kawa Coffeeが繰り広げる色とりどりの世界は、私たちに「違いを楽しむ」感性をさずけてくれるのかもしれない。

文:中道 達也
写真:Maéva Turam

MY FAVORITE COFFEE人生を豊かにする「私の一杯」

一日の最初に、仕事場で飲むコーヒーが好きですね。品質を確かめるためでもありますが、グラインダーや水など、おいしいコーヒーをつくるための機械や材料が仕事場には揃っていますから。

お気に入りの品種はスーダン・ルーメ。とても繊細なコクと滑らかな口当たりがある複雑なコーヒーでありながら、1日に3、4杯飲めるところが魅力です。

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