TYPICA GUIDE
Blue Beans Roastery ブルー ビーンズ ロースタリー / 坂下 健介

Blue Beans Roastery

ブルー ビーンズ ロースタリー / 坂下 健介

プロになっても、いちコーヒーファン。ピースフルな世界を信じる店長の“ロマン”

鹿児島県のコーヒーロースター:Blue Beans Roastery(ブルービーンズロースタリー)の写真01

コーヒー豆のよさをそのまま引き出す焙煎により、「明るい果実味と優しい甘さの感じられる」コーヒーを提供する鹿児島市のBlue Beans Roastery(以下、BBR)。溌剌としたスタッフの笑顔が、「スタイリッシュで無機質な空間」とも評される店内に彩りを与えている。そんなBBRのロースター兼店長を務める坂下健介さんに話をうかがった。 ※文中敬称略

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自分たちのファンになってもらう

後味がよくまろやか。コクがありビターテイスト。スッキリでフルーティー。一体感がありバランスが良い――。味わい別にコーヒーを紹介しているところからも顧客目線が伝わるBBRは、「マニアック」で「敷居が高い」印象を感じさせないスペシャルティコーヒー専門店だ。

「苦いコーヒーが苦手な方には、繊細な酸味や果実味のあるコーヒーを『飲みやすい』『すっきり甘い』ものとして勧めています。フレーバーについて説明しても、飲み慣れていない人にとってはよくわからない言葉と同じですから。帰り際などにコーヒーの感想を聞き、好印象を持ってくださった方には、より詳しい情報をお伝えするようにしています」

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実際、コーヒーを飲まない客も多く来店する。

「友達とおしゃべりを楽しみたい、甘いものを食べたいというお客さまにとっても居心地のよい空間をつくり、幸せな時間を過ごすお手伝いができれば一番うれしいですね。接客時に意識しているのは、自分たちのファンになってもらうこと。再来店されたお客さまに『こないだはラテを選ばれていましたよね?』などと声をかけるようにしています。

やっぱり、そういった声かけひとつで、お客さまの表情は変わりますから。お互い口角が上がると、気持ちいい一日になるし、うれしい気持ちが信頼関係を育んでいくと思うんです」

常連客の名前や好みをミーティングで共有したり、常連客が来れば、そこに居合わせているスタッフを全員紹介したり……。客をいい意味でお客さま扱いしないのがBBR流だ。坂下自身、「お客さまも知り合いの延長線上だと捉えて、気軽にコミュニケーションをとろう」と折に触れてスタッフに伝えている。

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坂下の関心は、まちづくりにも向いている。BBRではプラスチック削減の一環として、マイカップを持参した客には20円の値引きをしている。そうして集まった資金を、小学校での植樹や歩道の舗装をするための寄付金として活用する計画を練っているのだ。

「マイカップでコーヒーを飲むことで街の景観がよくなると目に見えて実感できれば、街に愛着が湧くと思うんです。そういった動きが、お弁当屋さんなど他の店にも広がっていくのが理想です。BBRのコーヒーを通して多くの人たちがまちづくりに負担なく参画し、新たなつながりが生まれるとおもしろいなと思っています」

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情熱を傾けられる仕事を探して

大学で障害児教育について学び、自身の未来をその延長線上に描いていた坂下だが、教育実習に参加したことが進路を考え直すきっかけとなる。

1週間参加した保育園の教育実習では、最終日に一日の保育プログラムを組む「設定保育」という課題に取り組んだ。担当した2歳の子どもたちの「設定保育」を考案し、保育士にフィードバックを求めたところ、予想外の答えが返ってきたのである。

「子どもたちはやがて3〜4歳になり、小学校に上がる。そのステップから逆算してプログラムを考えている――という話を聞いて、プロだなと感じたんです。僕たち実習生はその日一日のことで手一杯でしたから」

耳が不自由な聾唖児の入所施設で実習した際も、坂下は同じようなことを感じていた。

「子どもたちの家庭背景や特性を踏まえながら、社会の中で生きていけるように関わっていく。実習先で一番厳しかった先生のそんな姿勢に触れたとき、すごい仕事だなと。ひとりの人間にできることは限られているけれど、『サポートする』、『寄り添う』といった言葉では片付けられない深みを直観したんです」

現場で働く教育者たちに圧倒された坂下は、やりたいことは何かを改めて問い直した。周囲が次々と資格試験に受かり、就職先を決めていくなか、最終的に選んだ道はフリーターだった。

卒業後は学生時代からアルバイトをしていたマクドナルドでしばらく働いたのち、雑貨屋『Francfranc(フランフラン)』で2年間勤務。その後1年間は、結婚式を撮影する仕事をするなど、「やりたい仕事があれば転職」しながら進むべき道を模索していた。

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そんな坂下をコーヒーの世界に引き込んだのは、近所の店で飲んだ一杯のアイスコーヒーだった。

「もともと一般的な苦いコーヒーは身体が受けつけず、スターバックスのホワイトモカにガムシロップを入れてようやく飲めるくらい。なのに店のテーブルにはシロップやミルクもない。かといって無碍に断るわけにもいかないと、気が進まないながらも口にしたところ、すごくおいしかったんです。そこでいいものはおいしいのだと気づいてからは、スタバでもアイスコーヒーをブラックで飲むようになりました」

いつからかスターバックスの店員と顔見知りの間柄になっていた坂下は、ある日「今日はコロンビアとエチオピアのアイスコーヒーを選べますよ」と促された。

「コーヒーにも生産国があると知ったのはそのときがはじめて。日本の裏側から海を渡ってきたものを飲んでいることにとてつもなくロマンを感じたんです。その日を境に、喫茶店に通ったり、コーヒーにまつわる雑誌を買い漁ったりしながら、コーヒーの世界にどっぷり浸かっていきましたね」

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ずっとコーヒーに触っていたい

コーヒーの世界により深入りすべく、スターバックスでアルバイトを始めたのは20代後半のとき。撮影の仕事が途切れる結婚式のオフシーズンに稼ぎを得るためでもあったが、もともとスターバックスのファンであり、社風にも惹かれていたことが大きな理由だった。働き始めてからはさらにその気持ちは強まり、2年目にはSSV(シフトスーパーバイザー・店舗運営マネジメントを行う時間帯責任者)になった。

「ミルクのスチームがいい具合に仕上がり、絶対おいしくなると思いながらラテをつくっているとき。チームがひとつになっていると感じたとき、生産者の情報を学び、コーヒーについて深く知ったとき……。そのすべてにワクワクや喜びを感じていましたが、SSVになった一番の理由はミッションに共鳴したことですね。

心から接すれば、ほんの一瞬であってもお客様とつながり、笑顔を交わし、感動経験をもたらすことができる――。そのミッションを体現するために、スタッフが皆、よく来られる方の名前を覚えたり、世間話を交わしたりする企業文化が好きだったんです」 

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だが、一スタッフからSSVになり、求められる役割が変わっていくにつれ、坂下のなかで物足りない感覚が生じ始めていた。

「SSV時代から『アルバイトスタッフと同じ目線ではダメだよ』と上司にはよく言われていましたけど、監督やコーチになるためにプレイヤーを卒業することに未練があったんです。そのままずっとスタバにいれば、モノの売り方やマーケットの広げ方を学ぶことができたでしょう。でも僕はコーヒーマンとして、まだコーヒーを触っていたかった(お客さまに対してダイレクトにコーヒーを届けたかった)。スペシャルティコーヒーについて全然知らなかった当時、スタバ以外のコーヒーを触ってみたい気持ちもありましたしね」

そんなとき、スターバックスのいちブランドとして立ち上げられたのがコーヒーのプロが集う新業態カフェ「Neighborhood and Coffee」だ。スターバックス代表としてJBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)に出場するため、抽出の腕を磨きたかった坂下は、既存の店舗と掛け持ちで働きたい意志を面談で伝えた。だが、そこで返ってきたのは「他のコーヒー店の方が、あなたの目指している方向性と合致するのではないか」という趣旨の答えだった。

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スターバックスのことは変わらず好きだが、やりたいことができないのなら仕方がない。4年間働いたスターバックスに別れを告げよう。そう思っていた矢先、「朝と昼、ダイニングバーでコーヒースタンドをやらないか」という話が舞い込んできた。こうして、2016年10月、坂下はハンドドリップしたスペシャルティコーヒーを提供する「HAY COFFEE STAND 」をオープンさせたのである。

その後、HAY COFFEE STAND を閉店し、2019年1月には、よりフレキシブルな営業形態かつ、より幅広いメニューを提供できる環境を求めて、歯科医師のオーナーが開業したBBRの店長に就任。Youtubeなどをヒントに、独学で焙煎技術を磨きながら、「コーヒーマン」としての生き方を貫いてきた。

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BBRには、スターバックス時代の坂下を知る客も来店する。当時は顔見知り程度だったその男性客は、スターバックスを辞めた坂下を追って、HAY COFFEE STAND、そしてBBRにも来店し続けているという。

「スタバではいつもドリップコーヒーを飲まれる方だったので、エアロプレスで淹れた浅煎りコーヒーは好まれないだろう。そう思っていたのですが、試しに飲んでいただいたら、すごく気に入ってくださって。以来ほぼ毎日、店に通ってくれましたし、東京で開催されたエアロプレスチャンピオンシップ(2017年)に出たときは、会場まで来て、一番前の席で応援してくれました。

ただ、その方とは個人的な付き合いもないし、お互いのプライベートに踏み込むような話もしません。それでも足かけ約9年、3店舗にまたがって来ていただけるのはうれしいですし、こういう仕事でなければ体験できない関係性だと思います」

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コーヒーでピースフルな世界を

オープン1年が経ち、徐々に客が増えてきた矢先、BBRはコロナ禍に見舞われてしまう。全国に緊急事態宣言が出されたときには店内飲食を中止し、テイクアウトのみに切り替えた。先行きが見えない不安に苛まれるなか、在宅勤務になったと思しき人々が多く来店したほか、オンラインストアの注文も増加。むしろ普段より忙しくなったという。

「好きなBGMを店内に流しながら、お客さまが来たらコーヒーを淹れる。すごく幸せな仕事だと感じましたし、スタッフにも事あるごとにそう伝えていました。コーヒーが好きだということ、お客さまのおかげで仕事ができていることを再認識したコロナ後は、日々幸せを噛み締めています」

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地元の仲間とバンドを組み、音楽活動をしている坂下いわく、「スペシャルティコーヒーと音楽は楽しみ方が似ている」という。

「県外、海外のロースターから取り寄せたコーヒーを飲み、『おいしいね』『思っていたのと違う味がするね』などと皆で感想を言い合う。その感覚は、中学生の頃、好きなバンドの新しいアルバムを皆で聞いて、『このイントロいいね』『どうやってレコーディングしてるんだろう?』などと語り合っていた頃を思い出させてくれるんです。

思うに、コーヒーはすごくピースフルなプロダクトです。おいしいコーヒーをつくりたい、淹れたい、広めたい……。ロースターやバリスタなど、コーヒーに関わっている人たちは皆、純粋にそう思っているから、すごくオープンだし、お互いに切磋琢磨する関係でいられるんです。

だからすこし話しただけでも、大学4年間、苦楽を共にしたような関係になれる。同業者の活躍にあまり嫉妬を感じないのも、コーヒーをいいか悪いかで評価するのではなく、いいところを見つけようとする視点があるからでしょうね」

念願のコーヒーマンになった今でも、一コーヒーファンの気持ちを忘れず、おいしいコーヒーを求め続ける――。そんな坂下の“ピースフル”なマインドが、人の輪を広げているのだろう。

文:中道 達也
写真:Kenichi Aikawa

MY FAVORITE COFFEE人生を豊かにする「私の一杯」

誰かと飲むコーヒーが一番。おいしくても、おいしくなくても、味についての共感や議論、考察など、コーヒーを介して、いろんな会話が生まれるところが魅力です。誰かと飲むときはもちろん、一人で飲むときも、コーヒーを淹れているときは必ず誰かの顔が浮かびます。

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