All Day Roasting Company オールデイ ロースティング カンパニー / オースティン・ツァイ

All Day Roasting Company

オールデイ ロースティング カンパニー / オースティン・ツァイ

「私たちはコーヒー屋です」顧客目線に溶け込む“揺るがぬポリシー”

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多くのカフェが立ち並ぶ台北・民生社區に店を構える「All Day Roasting Company」(以下、All Day)。旅行サイトで台北の名店カフェ7店舗(ビックセブン)のひとつとして紹介されているAll Dayは、オースティン・ツァイが、2014年、大学の後輩らと一緒に創業した。その後、自家焙煎を始め、スペシャルティコーヒーに特化した店舗「The Normal」(以下、Normal)を2店舗オープンするなど、事業を拡大してきたCEOのオースティンに、コーヒーへの思いや将来のビジョンについて聞いた。

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一日中過ごせる空間を

お客様には気持ちのよい空間で、一日中ゆっくりとコーヒーを楽しんでほしい――。「All Day」という店名には、そんな願いが込められている。

台湾のカフェとしては目新しかったインダストリアルな内装や、パソコン用の席にすべて配置したコンセントなど、店内には心地よく過ごすための工夫が凝らされている。食事のメニューも豊富で、一日の食事をすべてこの店で済ます常連客も一定数いるという。

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土日になるとカフェが来店客で賑わう台北では、90分や120分といった利用時間の制限を設けるカフェも少なくない。以前はAll dayもその一つだったが、ある時期を境に時間制限を撤廃した。

「土日は混み合って行列ができるし、並ぶのが嫌で他の店に行ってしまう人もいる。それでも、『来店しているお客様を追い出さない』ことが私たちのポリシーです。確かに営業利益は下がりましたが、ビジネスを長く継続していくためには、長い目で見てお客様の信頼を得ることの方が重要です。実際、時間制限を撤廃した後は以前の常連さんが戻ってきてくれましたし、ネットでの評価も上がりました」

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All Dayのインダストリアルスタイルのルーツには、オースティンが世界各国で出会ったカフェの影響がある。台湾で生まれ育ったオースティンは、大学卒業後アメリカに移住。その後頻繁に足を運んだ国内外のカフェのなかでとりわけ惹かれたのが、インダストリアル系の店舗だった。アメリカのブルックリンやドイツ、ノルウェー……。いつか自分のカフェを持つならばこのスタイルでという思いが、のちのAll Dayへと繋がっていく。

台湾に帰国後もカフェに通っていたオースティンにとって、仕事を終えた後にコーヒーを飲みながらリラックスするひとときは何よりの楽しみだった。そんな折に、大学時代の後輩と、彼の友人からカフェを開きたいという相談を受ける。彼らの思いに共鳴したオースティンが出資する形で、All Dayを共同創業した。

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スペシャルティコーヒーを日常で

3人はその後、コーヒーへの関心が高い客層向けにスペシャルティコーヒーに特化した新店舗Normalへと事業を広げていく。2017年にはNormal仁愛店を、2019年には敦北店を、それぞれ台北の富裕層が多いエリアに出店した。

「質の高いスペシャルティコーヒーを、手が届かない高価なものとしてではなく、日常生活で飲めるようにしたい。Normalという店名にはそんな願いを込めているので、相場価格とされる200〜300元(約800〜1200円)よりも安い150元(約600円)からコーヒーを提供しています」

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Normal 1号店をスタンド形式の店舗にしたのは、ヨーロッパのカフェ文化にインスパイアされたからだ。店内はカウンター席のみだが、気持ちよくコーヒーが飲めるようカウンターの高さにこだわったという。

エスプレッソやシングルオリジンのコーヒーをバーカウンターで立ったまま飲むというイタリアのスタイルを台湾でも浸透させたい。そんなオースティンの思いとは裏腹に、Normal 1号店は期待通りの評判を得られなかった。

「台湾では、コーヒーを座って飲むのが一般的です。だからこそ、『こんなに美味しいコーヒーであれば、なおさら座ってゆっくり飲みたい』という声が多かった。そこで2号店は、台湾のお客様の要望に合ったスタイルを採用しました。広いスペースの中にテーブルと椅子を置き、落ち着いてコーヒーを楽しめるようなカフェにしています」

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一方、オープン当初は苦戦した1号店も、思わぬきっかけで風向きが変わった。コロナ禍によりテイクアウトスタイルが人々の生活に浸透し、スタンド形式が人々の需要にフィットするようになったのだ。

結果的に1号店の人気は高まり、以後も安定した売上が続いている。スタンド形式の何よりのメリットは、家賃と人件費を抑えられること。今後新しくオープンするNormalの店舗は、再びスタンド形式で出店する予定だという。

「ゆくゆくは産地を訪問し、生産者から直接生豆を買い付けられるように、まずは台湾で10店舗まで広げ、チャンスがあれば海外にも出店したいですね。店舗を増やせば、大量購入により生豆を安く仕入れられるし、新しい生豆の導入も試しやすくなる。最終的にはコーヒーの残りカスもリサイクルして日用品として再利用することで、コーヒー業界にも環境にも貢献できる仕組みを作りたい。壮大な目標なので、簡単には実現できないでしょうが、いつかはたどり着きたいと思っています」

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んなでつくる独自性

All Dayのターニングポイントは創業2年目、2016年のことだった。この年から自家焙煎を始めたのを機に店名も変更し、「Roasting Company」の表記が加わった。

「仕入れた焙煎豆では、質が不安定で、味の統一性を保ちにくかったんです。でも、自家焙煎を始めたことでその課題を解決できたうえに、コーヒー一杯のコストもかなり下げられた。生豆選びにもこだわり、その豆の個性を引き立てる焙煎をすることで、独自のフレーバーを生み出すこともできました」

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店の雰囲気やコンセプトが異なるAll DayとNormalでは、それぞれの焙煎スタイルを確立し、個性の異なるコーヒーを提供している。明るい味のAll Dayに、落ち着いた味のNormal。客からは「All Dayで飲むコーヒーはAll Dayの味、Normalで飲むコーヒーはNormalの味」と評されるゆえんである。

それぞれの味をコントロールしているのは、現在はヘッドロースターを務める共同創業者だ。創業前にカフェで6年間働いており、コーヒーを淹れる経験も豊富な彼が、スタッフに焙煎、抽出技術を指導している。

オープン当初は、スレイヤー製のコーヒーマシンを使用していたAll Dayだが、彼はあるとき、「自分の技術が高ければ、それほど性能のよい機械を使わなくても美味しいコーヒーが淹れられる」と気づいたという。以来、彼は技術とともにその考え方をスタッフに受け継いでいる。

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一方、オースティンは現場には足を運ぶが、実務をこなすことはほとんどない。経営と実務を兼ねる創業者は少なくないが、オースティンらは役割を明確にわけている。事業を持続可能なものにするために、オースティンが3店舗すべての資金繰りを管理し、ヘッドロースターが店舗運営やスタッフの教育を手がけているのだ。

ただ、完全に分業しているわけではない。

「みんなが美味しいと感じたコーヒーの中から、仕入れる生豆を選んでいますが、誰かの独断ではなく、コスト感覚を共有しつつ、相談しながら決めています。比較的高いものであれば、いくらで販売すればよいか、市場がきちんとあるか、もし売れなければどうするかまで話し合っていますね」

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大切なのは、やり抜く力

「近年、台湾では25〜35歳くらいの若い世代がカフェを開くのがトレンドになっている。小さなお店が次々とオープンしているが、すぐに潰れてしまう店も少なくない」とオースティンは言う。競争が激しいにもかかわらず、何が若者たちを惹きつけているのだろうか。

「今の台湾、特に台北では若い人は十分な給料をもらえず、仕事面でも金銭面でもストレスが多い。少ない給料のまま会社で働き続けるよりも、自分でカフェをやることに希望を見出しているのだと思います。小さなカフェにはそれぞれの個性があるし、コーヒーを楽しむ人がどんどん増えれば、業界も盛り上がっていく。とても良い傾向だと思っています」

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とはいえ、カフェを営業し続けるのは簡単なことではない。生き残る店と潰れてしまう店の違いを尋ねてみた。

「やり抜く力があるかどうか、ではないでしょうか。All Dayも最初は大変で、2年くらいはほぼ利益がありませんでした。この期間はお客様にコーヒーの説明を丁寧にしたり、来店者に頼んで情報をシェアしてもらったりしていました。広告料を払う余裕がなかったというのもありますが、店が成功するかどうかわからなかったので、広告への投資はしませんでした。

それでも、美味しいコーヒーを提供し続けていると、コーヒーへの理解が深いお客様が繰り返し通ってくれて、視界が開けてきた。どうすればお客様がもう一度来てくれるのか。店を続けるうえで一番大切なのは、それを考えることだと思います」

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各店舗のスタイリッシュな内装も、リピーターを惹きつける要因となっている。系列店でありながらも、内装を意図的に変えているのが特徴だ。

「今は写真を撮るのが好きで、SNSでタグ付けして楽しんでいる人も多い。お客様が他の店舗にも行ってみたくなるように設計しています」

利用客に喜んでもらうことを旨として、All Dayではフードを極力他店から仕入れず、オリジナリティを出すよう努めている。店のオペレーションからフードまで、オースティンらの顧客目線は随所に行き届いている。

「それでも『食事メニューは、あえておすすめする必要はない』とスタッフには伝えています。私たちはレストランではなくコーヒー屋です。店の主役はあくまでコーヒーなのです」

文:嵯峨 景子
編集:中道 達也
写真:王晨熙 hellohenryboy

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