辻本珈琲 辻本智久さん

私たちが出会い、インスピレーションを受けたロースターさんにお話をお伺いするMeet the Roasters。第二回目は大阪の和泉市に焙煎所とカフェを構える、辻本珈琲の辻本さんにお話をお伺いしました。

辻本珈琲さんは2003年にドリップバッグの充填からコーヒーのビジネスをスタート。2005年に楽天市場にてオンラインショップをオープンしました。約3,000件のレビューを集めるドリップバッグからCOE受賞のスペシャルティコーヒーまで、商品は非常に幅広く、その多様性に驚かされます。また、パンにマリアージュするドリップバッグやクラッシュドコーヒーゼリーなど、コーヒーに馴染みが無くても思わず手に取りたくなるような魅力的な商品が並びます。

今後、ますます消費動向が読めなくなる中で、多様性にしなやかに応答する辻本珈琲さんのビジネスには大いに学ぶべきところがあります。私たちもこのようなスタイルのロースターさんが生産地と直接つながることに、大きな可能性を感じます。

それではインタビューをご覧ください。

辻本珈琲さんには様々な層のファンがいらっしゃると思いますが、スペシャルティコーヒーを求めて購入されるお客様と、まだ馴染みがないお客様、どちらの方が多いですか?

スペシャルティコーヒーでなければ、というお客様はまだまだ少ないですね。より広く知って頂くために、SNSやブログでの発信、ご来店されたお客様には丁寧に接客する、という基本的なアクションを地道に続けています。

オンラインショップで最も人気の商品は何ですか?

創業当時からドリップバッグが大きなシェアを占めています。オンラインショップは、特別な抽出器具を持っていなくても、スペシャルティコーヒーに限らず、コーヒーの楽しさ、美味しさをお届けできたらいいな、と思ってスタートしました。

実は先日、オンラインでドリップバッグを購入させて頂いたのですが、淹れ方の説明が「約何グラム」や「およそ」というような表記をされていて親しみやすさを感じました。何か意図はあるのでしょうか?

有り難うございます。これに関してはまだまだ工夫できる事はあると思っているのですが、多様性の理解ということですね。美味しい淹れ方の答えは、コーヒーを飲む方がそれぞれ持っていると思うので、あくまで目安としてお伝えします。自分が好きな味わいを伝えることも大切にしていますが、それを飲む方が美味しいと感じるかは別の話なので、あくまで目安ですね。

コーヒーブームは一旦落ち着いたと言われていますが、まだまだ新しいロースターやカフェは増え続けています。辻本さんの視点で、日本のコーヒーシーンは今後どのように変化すると思われますか?

コーヒーのビジネスは参入障壁が低く、良いイメージを抱きがちですが、ビジネスを継続することの難しさが、やってみると分かると思うんですね。会社に資本と体力があれば続くかもしれませんし、また「好き」と「ビジネス」のバランスが取れていると続くのかな、と思います。日本は今後コロナの影響に加え、来年のオリンピック以降、経済の低迷が予想されるので、その割にはスペシャルティコーヒーを供給するお店は多すぎるのかな、という印象はあります。嗜好品の選択肢も多い中で、コーヒー、なかでもスペシャルティコーヒーに特化して生き残るのは、よほどの努力とバランス感覚がないと難しいのではないのかな、と思います。僕が大好きなコーヒー屋さんの先輩で、スペシャルティコーヒーにこだわって、その可能性を信じて、たくさんのお客様に支持されているお店はもちろんあって、僕もそうあれたらいいなと思っていますが、そこまで辿り着くのは決して簡単なことではないと思うんですよ。「美味しいコーヒーを多くの人に届けたい」という大きな目的からブレずに、続けていく努力、工夫は求められるのかな、と思います。そして、コーヒーの美味しさ、新鮮さは重要ですが、それと同じくらい、もしくはそれ以上に「またここで買いたいな」とか「またこの人が淹れたコーヒーを飲みたいな」と思って頂くことが重要だと思います。

HPやブログを拝見していても、人のあたたかさを感じました。

社名でもある「すてきなじかん」をお客様にお届けして愛される会社になる、そして、一緒に働く人とともに学び、笑顔あふれる素敵な会社にする、という二つの理念を掲げていて、その理念を通して豊かな人生を過ごす、ということを大事にしています。僕一人では何もできないんですよ(笑)みんながいるからできるし、一緒に働くスタッフもそう思ってくれているので、1+1+1=3ではなく、5にも10にもなるような仲間づくりができたらいいなと思っています。

今後、生産地とどのように関わりたいと思いますか?

まだ「こうありたい」とか「未来を一緒に描きたい」というより、自分の好奇心から生産地の状況を知りたい、という段階です。生産地を訪れて、コーヒーの可能性や多様性を肌で感じ、それをスタッフを介してお客様に届けたいと思っています。生産者さんの顔を知ることでより大事にコーヒーをお客様にお届けできる。その結果としてお客様から「この生産者さんのコーヒー美味しかったよ」という言葉を頂き、それを生産者さんに届ける。そんな輪を少しずつ広げていけたらいいな、と思っています。

いかがでしたか?長いご経験と確かな実績を持つ辻本さんですが、その謙虚で優しい語り口から辻本珈琲さんの本質を感じることができました。何よりも人を大切にする姿勢が、多くのファンを惹きつけているのだと思います。また、今後のコーヒービジネスにおいては、ロースターやバリスタなどの技術者だけではなく、企画や商品開発を担う人材、もしくはロースターやバリスタにその力が必要とされると感じました。商品づくり、お店づくり、そして人材においても、こだわりとしなやかさのバランスを取ることが成功の鍵かもしれません。

辻本さん、貴重なお時間を頂き、有り難うございました!

Interview: 藤井優衣
Text: 山田彩音

辻本珈琲
TSUJIMOTO coffee 楽天市場店

aoma coffee 青野啓資さん

私たちが出会い、インスピレーションを受けたロースターさんにお話をお伺いするMeet the Roasters。第一回目は、aoma coffeeの青野啓資さんにお話をお伺いしました。青野さんは七年前、大阪のELMERS GREENでロースターとしてのキャリアをスタートし、二年前に会社に所属しながら浅煎りに特化したEMBANKMENT Coffeeを立ち上げました。今回、京都のWeekenders CoffeeさんからProbatone5の焙煎機を受け継ぎ、独立開業されます。

aoma coffeeさんが選んだ大阪・船場は、心斎橋の北側、ビジネス街本町の東側にある、少し落ち着いたエリア。近隣には昔ながらの繊維問屋が立ち並びます。お店の隣にはギャラリーや素敵なショップを擁する丼池繊維会館があり、これからどんなエリアになっていくのか期待が高まります。

最初期からTYPICAのフィロソフィーに共感して頂いている青野さんに、これまでのこと、これからのことをお伺いしました。

会社員から個人店へ

独立はしたいと思っていましたね、ずっと。会社員として七年間勤めましたが、二、三年くらい経った頃から自分でやりたいな、と思い始めました。エンバンクメントコーヒーは僕が会社にプレゼンして二年前に立ち上げたのですが、五年前にはああいうスタイルはいけると思っていました。オニバスコーヒーさんなど浅煎りに特化したロースターが、東京ですでに活躍しはじめていて、絶対に大阪でもいけると思っていましたが、周りを説得するのが難しかった。浅煎り専門なんて絶対無理、と。この七年間コーヒーをがっつりやってきて、ウィークエンダーズさん、コーヒーカウンティさん、オニバスさんは常に意識していて、それを見ながら、自分は会社員だったので、同じ土俵には立ててないな、とは思っていました。

大阪を選んだ理由

お店の場所は京都と大阪で探していたのですが、京都は狭い街の中にすでにたくさんコーヒー屋さんがあるけど大阪はまだ少ないので、大阪にしようとは思っていました。そんな中たまたまこの物件を紹介してもらって、ここでいっか、と(笑)。これから大阪でスペシャルティコーヒーを盛り上げるのは、本音を言うと難しいと思います。僕らが取り扱うコーヒーは決して安くはないし、カルチャーとして広げていく必要があると思います。それにはコーヒー屋さん同士で連携を取るのも大事だけど、他の分野で同じ方向を向いている人たち、例えばレストランのシェフなどと一緒に何かできた方が、お客さんからすると分かりやすいかもしれません。無農薬の野菜を使っているとか、地元の食材を使っているとか、そういうこだわりを持った人たちと大阪から発信するフェスとかできたら面白いですね。

お店も一人でやっていてもつまらないので、コーヒーに限らずいろんな分野のスキルを持った人と少数精鋭のチームをつくりたいですね。コーヒーの技術はやっていれば身につくし、キャラが大事だと思っています。僕はゆくゆくはカウンターには立たず、お店を伸ばすために外に出ていく感じにしたいと思っています。

僕らにはない豊かさ

スペシャルティコーヒーを扱っていると、コーヒー生産者との関係性の大切さは感じるのですが、彼らに対して何ができるのかということはあまりピンと来なかったんです。生産者は発展途上国の貧しい人たちで、その人たちのために何ができるのか、自分の目で見てみないと分からないと思っていました。去年はじめてコロンビアの生産地へ行ったのですが、そのとき、生産者から僕らにはない豊かさを見せつけられました。みんなプライドを持ってコーヒーを作っていて、ある意味、日本人よりも豊かで。だから結局、ロースターと生産者が対等な立場でコーヒーの未来のために動いていくのが大事だと思ったんです。そんな話を以前どこかでTYPICAさんもしていて、同じだ、と思いました。それは生産地を訪れないと分からなかったことだし、これからも自分の目で見ないと何も言えないです。今後本当の貧しさを見せつけられるかもしれない。僕らが生産者のためにできることは、コーヒーをたくさん消費することだと思っています。最高品質の美味しくて面白いコーヒーだけを扱いたいとはまったく考えていません。小さいロースターでは難しいので、規模を大きくして、それ以外の「そこそこ美味しいコーヒー」も含めてたくさん販売したいと思っています。

大阪でまた新たなスタートを切る青野さん。職人的なイメージの方でしたが、経営者としても広い視野を持ち、新たなコーヒーカルチャーを育んでいこうという気概を感じました。生産者との関係性についてTYPICAと共感が深く、いつも応援して下さる青野さんとの未来が楽しみです!

Interview: 藤井優衣
Text: 山田彩音

aoma coffee